闇を好むかといわれれば恐ろしいと光を呼べる

暗闇に入り込むと、体の外側に力が抜けていくのが解る。

 

腕を伸ばすと冷たい空間にはしっかりと爪でかつんと音が鳴った。硬質的な音だった。私は仕方無しに起き上がり、携帯を放り投げ、眼を閉じたばかりなのか寝ているのか解らない彼の口を噛んだ。

口の味しかしなかった。

 

痛いので目を開けた。

彼女はにや、と笑ったが、闇の中でよく解らない。闇で目を瞑ると、無意味な気がしてくる。常夜灯の薄く赤い光はそれでも彼女を照らし、無意味な其のやらしい笑みも、同時に照らした。赤い。余り似合わないと、思った。手を伸ばして頬を掴む。彼女は驚いたが、口の中に舌を滑り込ませると同時に落ち着いたらしかった。ぬめりと呼吸と、唾液が絡んで、口の端から落ちるが、夜の冷気を帯びたコンクリートを濡らすのは他の液体の方が圧倒的に優勢なのだろう。