それは母と言う名の幼き頃の影

「あんたたちなんか死ねばいいッ!

 こんな子供、生むんじゃなかった!!」

 

鬼や悪魔や化け物なんか見たことなかったけど、今目の前で恐ろしい顔をして喚いているのは何なんだろう。兄貴が後ろで何か言ってる。本当に裂けてしまいそうなぐらいに口をいっぱいに広げたソレは急に向きを変えるとキッチンへと向かって行った。やっぱり兄貴が後ろで何か言ってる。けど私は兄貴の言う事よりも目の前のソレの動きが気になる。怖いもの見たさだ。

 

直ぐにソレは戻ってきて、あ、と思う間もなく私に向かって腕を振り上げた。きらきらとソレの腕に握られた何かが暗い部屋の中で光った。ソレが持っているコレは料理をするときに使うアレだ。

 

兄貴が凄い速さで私の腕を引いた。私達はそのまま転がるように家を飛び出した。ソレも私達を追いかけようとしていたけど、玄関でバランスを崩して倒れた。ソレは倒れたがそれでもまだ執拗に何か大声で罵っていた。

 

 

「泣かなくていいのよ、私がいるでしょう?」

 

誰も居ない公園のベンチで兄貴が私の頭を撫でていった。急に変わった兄貴の喋り方はとても何かに似て居ると思ったけど、それが何なのか私には分からなかった。

 

「私が守ってあげるわ。」

 

兄貴の手はとても暖かくて、それは「  」と言う名の。