生きる理

最初に冷水。それから徐々に温度が上がり、やがてすこし熱めに設定した湯がつめたいからだに降り注ぐ。太くて尖らない針が体に落ちてくるような刺激。だっていま体のどこもかしこもひえている。ひえすぎている。

 

すこしひらいた足のあいだから、どろりと昏い色をした塊が落ちる。タイルに落ち、鮮烈な緋色を一瞬だけ散らし、あとは排水口に尾を引きながら薄れていった。

臓物。だからってまさか食べようとは思わない。自分の食欲はまさかそこまで好奇心に満ちていないし、狂ったような気の滅入り方もしない。

ただその複雑な仕組みとは裏腹に単純かつ明確な痛みという感覚。また、腹の底から、普段は食物を溜めるしあわせな部位のはずであるそこから。なにか得体のしれないもねがひたひたと迫っている。

これに対する嘔吐感と、なにかをひたすらに痛めつけたい衝動。それを抑えこみ、さらに吐き気。悪循環。澱んだ眼のまま、私は蛇口をつよくひねりそれを止めた。

嗚呼あれが来る。狂ってしまう。おなかがどんどん重くなる。ひどい。おかしい。狂ってる。不条理だ、理不尽だ。

 

ひたひたと腹の底から迫ってくる闇色をしたものの正体を私はしっている。女の情念。いや、それになるもっと前の源。原始的な塊。

なあ、しっているか。おんなのこは呪いでひとを殺せるんだよ。月に一度だけ。

 

痛みによるものか、生理食塩水を押し出すほどに、身体をなにかがうめつくしてしまったのか。わからないままただ涙をにじませて。私は童のように頬をふくらます。まさに子供じみた。意味のない感情。だからこそ強く。そして明日か明後日には消え失せる。