幻聴

彼はとおったきれいなこえでさみしそうでもない顔で私に助けてとゆったのだ。

 

聞き逃してしまう。

声の通った先を私は見ない。見えない。空気に攫われていった。かっこいいぞ空気。素晴しいぞ空気。でももっかい戻ってきて。もっかいききたい。

そらがたかくない、それは彼の身長ゆえで。進んでいく時代のように真っ直ぐ進んだ彼はきっとこれから一回滅んで退化していく。停滞をして、滞って、真っ直ぐ進まなくなって、とまるのは何時だ。ようし、がんばれ、がんばってとまれ。でもせめて一緒のとこまですすみたいんだけどいいですか。ちょっとねえ、きいて。

私は年上が好きだ。女でも男でも年上が好きだ。年上に理不尽な包容力とか責任力は要らない。ただ間抜けを見るような哀れむような羨んでいる様な、その眼差しが大好きだ。もっと哀れんで、慈しんで、羨んで、莫迦にして頂きたい。もっとこっちを見なさい。それらの眼差しを跳ね返す。

にんげんは十代に成ってから全てを跳ね返すのだ。9歳までは駄目だ。二桁。数字の二桁を己の肉に閉じ込めてからの数十年間。それからだ。全てを跳ね返す。

圧倒的フィルター持っているのはシェルターあとDEEPFREEZE!でっかい冷蔵庫だぜ。彼が笑ったりしないほうに私は遭遇する確率が高い。それでもにっこりしているのを見たくて、私はじっと見ている。

 

私はそのとき何も考えていなくてただ潰れた煙草の空箱を見ていたのだけど、何かが動いたと思ったら彼がこちらを見ていたので、ふと笑うと。彼も笑った。

しかし私は解っている。彼は捕まっているのだ。いまだに。きっと遠いところにいる危ない、しかも私の見たこともない恐ろしいものに捕まっているのだ。きっと。

 

彼は静かに私に言ったのだ。

助けて、と綺麗な声で言った彼を私は絶対に忘れないと思う。