けっして悪いことはしないのだと思った
彼女の笑顔が余り誰にも望まれてなくて、それを彼女は楽しがっているらしかった。
意外性を己で作り出してそれを楽しむ。莫迦みたいな女だ。脳まで腐ってしまったらしいその女は、両手を広げた。飛びたい、と言った。
飛べない。飛べない。それを解っていても飛ぼうとする人間がそんなに面白いか。
この世は何があるかわからない。
でもあの世だって人間は何があるか解っちゃいないんじゃないか?
しっかりと踏む土があるはずなのに、一階二階三階とねちねちと上から上に移っていく。そんなに人間は人間が嫌いなのか?どうなんだろう。おどけてみても駄目だよ。全部、知っているんだ。
突然彼女はしっかり窓枠と掴んだ。足を乗せ、窓枠の上に載った。腕を離して少しぐらついたように見えた彼女は今、重心をどこにも向けていない。
死ぬよ、と言うと死ぬね、と言った。
彼女はわたしを振り返ってねえ、と問いかける。
鳥はなんでこの世にいると思う?わたしは、知らない、と応える。
あいつら元は人間だったからだよ、と彼女は笑った。お前はあの世でも見てきたのか?
わたしは笑わないで、彼女から伸びた薄っぺらな布切れの裾を、つよく握りしめることにした。