衝動を補う

力を込めた指先がひくいひくい唸り声に触れる。

あと少しですよ。力の中心から徐々に変色する肌。赤から紫へ。確かに近付てくる終わりの一瞬。締めた喉元から出てくる声は音にならずひゅぅっと息が抜けていくだけでどこか間抜けだ。

薄く開いた唇が言葉をなぞる。やるならはやくやれよ。くっきりと、笑いながら。

込みあがる嫌悪感に眩暈がする。

ぐらり。

咄嗟に締めていた手を離して口元を抑えれば、どろりとした液体が掌を穢した。

目の前の男は数回咳き込んだだけであとは何事も無かったかのように背を向けて立ち上がる。

髪の隙間から紫の痕がくっきりみてとれた。咄嗟にでかかった言葉が喉にはりついてひゅっとさっき男が出したような間抜けな音が床の上に転げ落ちていった。

ああもう、またやれなかったなァ。かざした掌はまだ震えていて、それに苛立ちを覚えながらも白い煙と一緒に流れてきた煙草の匂いに、どこかほっとした。