紺碧に沈む岸壁 

完璧はあるかな、と彼はかしこぶってわたしに尋ねた。首を振って否定する。

ならばそれになろうとは、と彼はけしかけるように笑った。

彼が笑っている。笑いすぎだ、とわたしは感想を言った。彼は笑うだけで答えてはくれなかった。感想なのに、わたしはそれについての感想を求める。

彼は笑い飽きたのかいきなり机の上に寝転んだ。彼の背骨を机が受け止めるが決して受け入れはしない。彼はそういう男だと思う。常に誰かを皮一枚で隔てている。わたしにでさえ。それが正しい?わたしはそれを誰にも聞かない。しんと部屋は静まっていて、あいにくともう夏の気配は無い。わたしは自嘲気味に、少しだけ笑った。

 

そのいろはうつくしいとはいえなかった。ただきたないともいえなかった。せかいはみにくくしずんでいくのだった。だれかがみたこともないうたをうたっていたきがした。それもたぶんみにくくしずんでいくのだった。

 

彼は笑った。

正しいことは何も無いけど完璧はあるね、彼はそういってけたけたわらった。わたしは目を閉じる。彼は笑っている。

ひとしきり笑ったあと、わたしの目を見つめてもう一度、完璧はあるよ、と言った。

どこに、とわたしが聞けば、彼は首を振る。そして親指で自分の心臓のあたりを指差した。何も言わずに。突き刺すようだった。

わたしは眉を顰めない。ただ目を見開く。彼はやはり笑っていた。

わたしはいびつに笑顔を向けながらも、なんだかとても吐き気がして、泣いてしまいそうな気がした。