2018-11-01から1ヶ月間の記事一覧

そっち

最近、少し冬が嫌いじゃなくなった。 前までは本当に夏が一番好きだった。暑い中仰ぐ団扇の微妙な涼しさとか、日光がアスファルトに反射する美しさとか、冷たいアイスを溶けないように食べることだとか、水の気持ちよさとか、祭りで夜と共存することとか、花…

詭弁

死は穢れである、なぁんて誰が決めたんでしょうかね。 断言するなって?だってそうでしょう。 大体「縁起が悪い」とかいう発想自体が、死を悪として捉えたからこそできたものだとは思いませんか。 命は繋がっていくものらしいですよ。 例えば、私がどっかの…

複雑だと思いたい

複雑だと思っていたい。 彼女は座っていて、その彼女に手を出そうと思ったのは特に意味はない。ただ触れると頬は柔らかく反発した。侮蔑するように睨まれる。指を噛まれる。生意気だと思った。 複雑だと思いたい。 とてもがんじがらめで歪んだものだと思いた…

笑っておくれよ

水色のマフラーが笑っている。 綺麗な振りをして埃だらけのそれが、命綱のように彼女を取り囲んでいる。 ただ首にしか触れていない。これでは死んでしまう。だが私には助けられないのだと、私は慎重に考える。助けられないものをすくあげようとする「癖」が…

世界の全てを殺しても君だけは生かしておくよ

君はもう死んでいるんだ。わたしももう死んでいるよ。 わたしは眼が覚めると必ず、此処が極楽浄土なら良いと思ったものだった。 わりと昔からの願望だ。誰もが極楽浄土に居ると思っていたからだ。極楽浄土は良いところだと聞いた。そう言ったのは誰だったか…

発狂

わたしの心の底には化け物がいる。 暴れ回りやしないし、何かを唆すでもない。ただ10年前に作った血色の汚泥に身を潜めて、飛び出す瞬間を目をぎらつかせて狙っているのだ。嫌な笑み。もうそろそろだと、化け物は言う。腐った呼吸が首筋に当たったような気…

終幕はまだですか待ち望む結果の先

わたしは長い間ふたつのものに恋をしていた。 たったふたつの尊ぶべきものに向けるいっさいの感情はいつだって美しくなどなくて、可能ならいつだって切り離してしまいたいと思うほどに重く苦々しいものばかりだ。例えば敬愛であり、羨望であり、憧憬であり、…

おもひでぼとぼと

奇麗な切断面からまだ流動を続ける血液が次から次から流れていて、室内は慣れた香りでいっぱいだ。随分あっさりやられたんだなあと最初の感想はそれだった。素直に。だってあんなに、あんな叶わない場所に立っていて何度も届かねえと思ったのに、あんたの死…

やさしいぜつぼう

そのいきものが、すこしずつだけれど確実に死に近付いていることは遠眼にもはっきりとわかった。狭い車道のまんなかに横たわるそれに気付いて、先輩はぎゅっと眉根を寄せる。 「あ」 みじかくあげられた声に籠もる感情が何なのかはわからない。ちなみに私は…