欲望について、五大欲求の弁解と逃亡

性欲

かれからてのちからがぬける かれのてをすりぬけるわたしと

そのてににぎられることのなかったわたしのうではせかいをみのがしてしまう

 

全てを殺す準備を常にしている。男に勝てない腕力じゃない。男に押さえつけられると力を失くすのは女の本能だ。つまり、この、肉の割れ目の。口に出すと、灰色の髪の男は顔を顰める。はしたないことをいうもんじゃない、そうは言うのだが、彼にもそれ故の肉棒と本能を持っている。世界は人口により破滅する。人は増えていく。だから死ななくてはなるまい。精液が無駄になることを望む。女の肉の割れ目が無意味であることを望み、男の肉の棒が無意味であることを望む。静かになって欲しい。絶対無いだろうけれども。だからこそ肉を持ち肉を立ち肉により肉の支配。モノクローム。本来色すらなく。

 

 

 

睡眠欲

めをあけてはならない かれはみられたくない

めをとじてはならない かれらがよく解らない

 

起き上がると、転がっている骸のような女の長髪が目に入る。潰したい形の頭をしている。つつくと起きる気配は無い。下半身の重苦しかった性欲が抜け出た朝なので随分自分もさっぱりしている。フィフティフィフティではなかったが。横に転がる骸のような女の長髪を指に絡めてすう本抜く。日に80本ばかり抜ける生き物は健康体だそうだ。昨日は非協力的だったので今日は協力的に抜いてやる。呼吸は聞こえる。ごく僅かだけれども。これに金属を突き刺したらどうなるだろうか。そう考えるが直に萎える。刃物が似合わないのではない。似合いすぎてつまらない。この女は死ぬべき女で骸なる女なのだ。だからほら、こうして、眠っているほうが似合うではないか。

 

 

 

金銭欲

てもとにのこるのはやつのからだのにおいをのこしたただのかみきれ

それゆえにほおずりしたくなるやつのにおいをのこしたただのかみきれ 僅か、血の匂い

 

お給料を片手に家に帰る。彼は恐らくいないのだろうが、それでもある程度の懐の暖まりに顔が綻ばないでもない。家に帰ると、わぁ、と声が聞こえる。見ると彼の知り合いの面々が集まっているのだ。あらら、と声に出すと、ひょっこりと夜の連中まで出てきて、表向きだけはにこにこ笑うことにした。黒髪と金髪が飲み対決などと嘯いている横で、その髪の短い髭の生えた男は笑っていた。その男はムラッ気のある男で、いつまでもついてきたかと思えばいつの間にかいない。毎週顔を出すかと思えば指名すらしない。やはり何故か私はそいつに血の匂いを嗅ぎ取ってしまう。どうしてだろうか、この無意味さは。やはり血の匂いを嗅ぎ取ってしまう。胸の中の封筒を撫でる。睡眠欲に取り付かれない夜は過ぎていく。何故か懐の金銭が温かく感じた。ちょうど、体温のように。

 

 

 

物欲

てよりもからだごとひきよせる みせられたとうそぶくがほんとうはしっている

いやじゃないからついてきたのだろう その顔が歪むのが好き

 

アッハッハッハ、と馬鹿のように笑う奴の手首に女物の飾りが下がっている。利き手は知らないが、先ほどから矢鱈と左手で仕事をこなすのはただたんにそれをみせびらかしたいだけだろうか。この男の物欲には付き合いきれないし、欲しがった途端に離すその神経も理解し難い。宇宙は広いがこの男が本当に欲しいものは無いしほしくないものも無い。全ては闇の中だ。金銭欲より勝っていくこの男の物欲にいったい何が勝てるというのか。ちゃらり、とあの飾りがなった。私がそれを見る。その顔を顎で持ち上げて、奴は私の顔を見る。目が笑わない。癖なのか、元からなのか、笑いすぎた故なのか、知らない。妬けるか?奴が聞く。私は無表情に、興味無い、と言い放つ。奴は面白くなさそうに、肩を竦め、その手首の飾りをブッちぎって、ゴミ箱に投げ込んだ。何れ砕かれて無に投げ込まれる。

 

 

 

排泄欲

あるかなくていい うまれたばかりのいきものはいつだってあるけないのだから

わらわなくていい いきかえりなんてしんじないほうがいい人間しかわらわない

 

排泄欲ゆえの我侭だろうか。腰を掴む手に力が入る。ふっ、と呼吸が漏れる。先ほどから酸素の無駄遣いだが、自重は無駄である。懲りない面々。果てるまであと何分だろうかカウントダウンは嫌いだ。どろどろしている、いきものすべて。手が体の上で滑る。奥に行こうとするが上手くいけなくて一度抜きかけてまた行こうとする。その過程が快楽になる。よって結論のすり替えである。推進力は要らなくなっていく。過程があれば良いのだということに気付く。結論なんて見なくなっていく。愛情とは、根拠の無い物欲。いずれどこにもいけなくなる。行く必要もなくなる。汗が流れる。腕が背中を掴んでいる。この背中のいずれかに世界があると彼女は思っている。だから世界を恨む君は背中に爪を立てる。

 

 

 

セックスはしたくない、眠たくも無い、お金は要らない、物欲しくない、逃がしたくない。

恐るべき程の欲求よ、身に余る光栄も

然るべき故の欲求よ、醜い情景音楽も

怒るべき人の欲求よ、暴力沙汰の夢も

嘆くべき星の欲求よ、余すところなく

破棄せよ空の欲求を、いますぐにでも本を読みながら!

 

ぜつぼうをするよ!いつものあのはげしいぜつぼうを!