2018-01-01から1年間の記事一覧

そっち

最近、少し冬が嫌いじゃなくなった。 前までは本当に夏が一番好きだった。暑い中仰ぐ団扇の微妙な涼しさとか、日光がアスファルトに反射する美しさとか、冷たいアイスを溶けないように食べることだとか、水の気持ちよさとか、祭りで夜と共存することとか、花…

詭弁

死は穢れである、なぁんて誰が決めたんでしょうかね。 断言するなって?だってそうでしょう。 大体「縁起が悪い」とかいう発想自体が、死を悪として捉えたからこそできたものだとは思いませんか。 命は繋がっていくものらしいですよ。 例えば、私がどっかの…

複雑だと思いたい

複雑だと思っていたい。 彼女は座っていて、その彼女に手を出そうと思ったのは特に意味はない。ただ触れると頬は柔らかく反発した。侮蔑するように睨まれる。指を噛まれる。生意気だと思った。 複雑だと思いたい。 とてもがんじがらめで歪んだものだと思いた…

笑っておくれよ

水色のマフラーが笑っている。 綺麗な振りをして埃だらけのそれが、命綱のように彼女を取り囲んでいる。 ただ首にしか触れていない。これでは死んでしまう。だが私には助けられないのだと、私は慎重に考える。助けられないものをすくあげようとする「癖」が…

世界の全てを殺しても君だけは生かしておくよ

君はもう死んでいるんだ。わたしももう死んでいるよ。 わたしは眼が覚めると必ず、此処が極楽浄土なら良いと思ったものだった。 わりと昔からの願望だ。誰もが極楽浄土に居ると思っていたからだ。極楽浄土は良いところだと聞いた。そう言ったのは誰だったか…

発狂

わたしの心の底には化け物がいる。 暴れ回りやしないし、何かを唆すでもない。ただ10年前に作った血色の汚泥に身を潜めて、飛び出す瞬間を目をぎらつかせて狙っているのだ。嫌な笑み。もうそろそろだと、化け物は言う。腐った呼吸が首筋に当たったような気…

終幕はまだですか待ち望む結果の先

わたしは長い間ふたつのものに恋をしていた。 たったふたつの尊ぶべきものに向けるいっさいの感情はいつだって美しくなどなくて、可能ならいつだって切り離してしまいたいと思うほどに重く苦々しいものばかりだ。例えば敬愛であり、羨望であり、憧憬であり、…

おもひでぼとぼと

奇麗な切断面からまだ流動を続ける血液が次から次から流れていて、室内は慣れた香りでいっぱいだ。随分あっさりやられたんだなあと最初の感想はそれだった。素直に。だってあんなに、あんな叶わない場所に立っていて何度も届かねえと思ったのに、あんたの死…

やさしいぜつぼう

そのいきものが、すこしずつだけれど確実に死に近付いていることは遠眼にもはっきりとわかった。狭い車道のまんなかに横たわるそれに気付いて、先輩はぎゅっと眉根を寄せる。 「あ」 みじかくあげられた声に籠もる感情が何なのかはわからない。ちなみに私は…

わたしはここにいるよ

薄暗く煤けた無機質の部屋の片隅で、愛しい子供が泣いている。 疲れているの、と、いつまでも泣き止まない。 ティーブラウンの澄んだ瞳を涙でいっぱいにして世界中の音を拒絶するみたいに両手で耳を塞いでぎゅっときつく自身を抱きしめながら泣いている。 触…

泣けというのか

人々の倒れきった身体を見ていると、少し頭が痛くなった。 煙草を吸うと安心した。咽喉を焼き、要らない嗚咽は流すことも無い。 泣きてえなァ、と誰にとも宛てず口に出した。身も回りの馬鹿どもは常に泣けと背中で語る。 残念だが、そんな暇は無い。殴り倒さ…

鉛色の青春

血の流れる傷口から心臓の音がします。 止まれと思うのですが止まらず、さらに流しているようです。心に正直な身体に生まれてよかったと思いました。 朝起きて見た空は白い穴だらけでした。雲は傷口を塞ぐだけで、何もしてはくれませんでした。空の傷口、胸…

愚かだからさ

歪んだ視界の中で涙は一貫性のない暴力的行為。 我侭な生き物の首を跳ねていく皇女様が一番の我侭だったので首を跳ねられてしまいました。 バウンドする首。その顔は笑っている。何時でも彼女の至福の笑顔。どうせアタシには勝てないのよ、などと彼女は言っ…

ぬくもり

ぬくもり、というあたたかさそのものがわたしには解らない。 ヤケドをする程熱いものなどは解るのだけれど、何故か人間の体温とあたたかいものの差異が解らない。そう言ったら困った顔をした彼は、やけに敏感でいけない。 あたたかいものはあまり好きじゃな…

浮かばない船は無くて浮く必要の無いからだがある

風呂場の湯が、わたしのからだのにまわりに纏わりつく。皮膚が水の浸入を防ぐが、手を持ち上げて、静かな水面に雫をたらす。 欠伸をした。ぬるま湯が好きで、あまり温いと何故か熱いのが好きな彼に怒られるのだが、それでもぬるま湯が好きだ。眠たくなる。 …

ふたり

何時から二人に成ったんだろう。二人というのは、合理的ではない数字だ。わたしは何より、向き合うことを恐れているのに。 なあ、こんなはずじゃあなかったのに。二人になんか、成らなければ。 君もわたしを見捨てていれば良かったのに。もし見捨てられてい…

けっして悪いことはしないのだと思った

彼女の笑顔が余り誰にも望まれてなくて、それを彼女は楽しがっているらしかった。 意外性を己で作り出してそれを楽しむ。莫迦みたいな女だ。脳まで腐ってしまったらしいその女は、両手を広げた。飛びたい、と言った。 飛べない。飛べない。それを解っていて…

飴玉を舐めていると時たま苦くなりたい自分に気付く

ぴりぴりと、尖った刺激的な味になりたいと、時たま自分に思う。 自分が、なりたいのだ。口の中に甘さを求めている分、自分は甘くないのかもしれない。 過食気味だと、一度だけ言われたことがある。甘いものに関しては過食気味だと、あの笑い顔で言われた。…

町からの誘惑とともに

知らず知らずのうちにどこかへ迷い込むのが好きだ。どこかへどこかへと唱える。 誰もいない場所へ時たま行きたくなる。そこがわたしの場所のなのかもしれないからだ。わたしは帰っていってしまうのだろうか。 慣れきってしまった身体を解すみたいに、わたし…

鳥葬

「死体に、ハゲワシが群がった。一斉に翼が視界を埋め尽くし、私は呆然としてしまい、結局フィルムに、鳥の嘴が内腑を来世へ啄ばむ光景を、捉えることが出来なかった。」 読んだページにきちんと栞を挟み、彼は彼女の方を伺い見た。彼女は彼に背を向けて、何…

紺碧に沈む岸壁 

完璧はあるかな、と彼はかしこぶってわたしに尋ねた。首を振って否定する。 ならばそれになろうとは、と彼はけしかけるように笑った。 彼が笑っている。笑いすぎだ、とわたしは感想を言った。彼は笑うだけで答えてはくれなかった。感想なのに、わたしはそれ…

衝動を補う

力を込めた指先がひくいひくい唸り声に触れる。 あと少しですよ。力の中心から徐々に変色する肌。赤から紫へ。確かに近付てくる終わりの一瞬。締めた喉元から出てくる声は音にならずひゅぅっと息が抜けていくだけでどこか間抜けだ。 薄く開いた唇が言葉をな…

衝撃

声がかれるほどの魂の震えは無いとしても心臓は止まるかもしれない。 彼はわたしのことを好きなのかもしれないと言ったのだが、その先を言わない。言わないならわたしは聞かない。 彼は眠るとき以外の時間眼鏡を外さない。眼は閉じている。べつに、泣いてな…

雑草

売っている食材があまりに哀れに見えて悲しむ。今もなお誰かが死んでいると思ったが実は夢見の悪さに悩む自分を確認しただけ。 目に痛いものがある。頭上で輝く太陽が、人の目玉を焼き殺す。起き上がって闇に沈め。例えようのない世界観に限って其の穴は浅く…

警告

振るった剃刀の血のほとばしり方が、映画のようで苦笑い。 朝から呼び出しを食らって、まだ顔も洗っていない。正気の沙汰じゃあない。わたしはだらだらと力を抜いて生きているというのに。 わたしの目に浮かぶのは誰かの警告で、今すぐ此処から、と、その先…

問答

誰かの声が誰かを脅かす。誰かの声が誰かを溢れさす。誰かの声が誰かを? ひやかしている。ちがう。ならどういうことだと。どういうことでもない。ならどういうつもりだと。どういうつもりでもない。そんざいのいみすらひていを。ちがう。ならことばをつむい…

これまでの証拠を隠す

悲しみに咲く花は咲かないもの、と彼女が言う。 彼女の中の本当は本当だったからこんな壁の中にいるのだけれど、わたしはそれに満足しているので貴方は満足しているのと聞いたらその答えが返ってきた。 哀しくはないのか、そうなんだ、とにっこりわらって聞…

あっかんべえ

あんたはそうやって何でもない顔をする。 いつだって本当のぼくをみてないんだからさ。 それが悔しい。それが悲しい。それが、何。 愛の言葉なんか決して要らないのに、 あんたがそんな素振りを見せるから ぼくは負けた振りをして受け入れてあげるんだ。 そ…

幻聴

彼はとおったきれいなこえでさみしそうでもない顔で私に助けてとゆったのだ。 聞き逃してしまう。 声の通った先を私は見ない。見えない。空気に攫われていった。かっこいいぞ空気。素晴しいぞ空気。でももっかい戻ってきて。もっかいききたい。 そらがたかく…

膨らむ

大きな肩口に額を押し付けると額は温度で温まった。彼よりも本当は自分の体温の方が高い。今しがた人を殴った。血にぬれないまま人を殴った。臭いを懐かしむことはしなくて良い、そして抱き返すこともしなくて良い、出来ることなら、頭を破裂させて欲しい、…