わたしは泣いてしまう

わたしは泣いてしまう

わたしは泣いてしまう

わたしは泣いてしまう

わたしはきっと泣いてしまう

 

 

この一人だけの空間で誰にも邪魔のされない空間でけれどわたしだけは涙を流してはいけないような気がしたので溢れてきそうになる熱い何かを必死に止めようとしてだけどそれはどうしても溢れたがって目玉を押しのけるようにあふれ出たそれを必死に隠そうとしてわたしは溢れてきたその熱さを誤魔化そうとして胃の中のものを足元にぶちまけたのだ。胃は収縮をやめないでどんどんどんどんその中にあった食物を上へ押し上げて食道を無理に通過させて本来そこを通るはずである酸素であったり二酸化炭素であったりするものを全部拒否して中のものを無理矢理に押し出すからわたしはその合間合間に短く ひゅう と息をするしかなかった。熱い何かに構っている暇もなくいや構いたくないからなのか胃はどんどんと活発に動き出してもう固形物等はとっくに押し上げてしまったのにそれでもその中に溜め込まれている酸っぱい液ばかりを嫌だ嫌だと駄々をこねる子供のように押し上げてくる。何にそんなに駄々をこねるのかわたしはわたしの体の一部であるにも関わらず全くわからないのだが自らに起こっている非常事態とも言えるべき現象をどこか冷静に分析するのであればきっとわたしは泣きたくなかったのだ。泣きたくなどなかったのにわたしの目玉はそれを拒否しきれずにだらしなくその塩味の液を流してしまうからわたしの胃は仕方なくそれを誤魔化す意味も込めて酸っぱい液を口から流すことにしたのだろう。わたしは今どんな顔をしているだろうか少なくても苦しそう、かなしそうという類のものではまるでないと自身で理解はできている。本当は自身できちんと理解はできているがどうしても誰かに言って欲しかった。それが例え彼でも今のわたしは全く構わなかった。ここに彼が居たならきっとわたしに言ってくれるだろう。顔色一つ変えないで言ってくれるに違いない。「何をしているのか」と。彼がわたしに対して嘘をつく必要はどこにもない。疚しいことも後ろめたいこともましてやわたしを気遣うこともないのだから凛としたあの声であの透き通るような声で言ってくれるに違いない。そして彼の目に映るわたしはまったく不自然なものではなくただ「わたし」という一人の人間が目から口から色んな液体を流しているに過ぎないのだろう。「わたし」が息をしている「わたし」が生きている「わたし」が笑っている「わたし」が色んな液体を出しているどれも彼にとっては不可解なことなど一つもないただの事実として受け止められる、ただそれだけのことなのだ。一つ違うことがもしあるとするならば目から口から色んな味の液体を流しているわたしはいつもより少しだけ奇妙なものに見えるだろう。

 

 

泣くわけにはいかなかった

泣くわけにはいかなかった

泣くわけにはいかなかった

 

だってわたしには泣く理由がどこにもない