念仏を唱えようぜ、眠りから死ぬまで。

唇を捻ると、其の顔自体を捻って、そっぽを向いてしまった。首に噛み付こうか、と思案して止めた。手の平でその首を掴むことにした。

 

首は柔かく硬い手のひらの中に吸い付いて、しとっと雨の様な体温が手の平の指紋の隅々にもぐりこむ。

人間の体の恐ろしさよ。浸透するだけではまだ足りないのか。

体の上に張りつくされた復活する細胞と皮膚。傷は治ってしまいますが、跡が残ったりもしますがやはりそれも直すことが可能。膿んでしまえば良い。だがその傷口すらも。当たり前の話だった。

 

首は手の平に収まる。握り締めは出来ないが、呼吸と同時に嚥下される唾、呼吸は大丈夫ですか、食道は。大丈夫ですか、そしてその声を出す器官は酷く女のそれに似ているとは思いませんか。

 

どこまで行きましょうかとタクシーの運転手は私に聞いたが、行きたいところを思いつかずに貴方を思い出すよ。

 

どこにいったって構わないんです。

何処に居ようとも、何処に行こうとも、何処に何をしに居ようと切望したとしても。

 

 

追いつくことは無いだろう。ただたまに酷く荒れた手の平を思い出すだろう。

 

確信じゃなくて希望かも知れません。それだとしても自信だけは常々に備わっています。

 

手の平から浸透してくるのがわかりますか。私には手の平から浸透されているのが解りますから、恐らく貴方にも浸透しているのでしょう。

 

 

天国は信じなくても良いんです。何時までも念仏を唱え続けるんです。

いつも死んでいくのが人間の常々ですから、何時までも念仏を唱え続けるんです。

 

天使に怒られようとも恐くない気がしています。

念仏を唱え続けるんです。天国を信じなくても良いんです。

 

 

項を撫でる。身体は身動きをしない。

期待は絶望を招き、念仏を唱えましょう。

触れたいというよりは触れないと不安というよりは、そこにいたから触っているだけです。

 

何処に居ようとも何処に行こうとも何処に至っても何処に居ることを切望しようとも、おそらくそのただなんとなくの行為だけを貴方は覚えているでしょう。

 

浸透するのは指紋からです。体の隅々には恐らく何も居ません。

 

 

 

 

空虚が住むほどの隙間は無く、命を感じられるほどの世界も無く。