丁寧な言葉は要らず また斬新なセリフも要らない

眼を閉じるために必要なのは瞼其の上に降りかかる火の粉に似た物体は君の唇と言い換えておこう。忘れないように。脳をブチ撒けないように、手の平に握り締めているのは君の知らない黒い物体ほらトリガーが熱い。瞼の上の唇のように。

抱きかかえている頭は予想通りに小さく、そして丸かった。撫でたいと思った。やめておいた。間違ってトリガーをひいたら殺してしまう気がした。手のひらの中の拳銃はしなやかな鉄で美しいと私は思う。例えば君の澄んだ目玉のような美しさだと思う。空が高いのは夜だからか。ビルが遠いからか。ネオンの光で全てを照らして朝が来ないうちに滅びれば良いとおもう。泣きたいと思った。

 

私が君の顔を見ると、君は目を細めた。笑う。仕方ないので頬を撫でてやると押しのけられて、瞼に唇を押し付けられる。眼を閉じた。開けると涙が出た。無理すんなよと笑いながら君は言った。小綺麗なスーツのまま君は笑った。私は眼を閉じてまた開く。ぬくぬくとする瞼。降りかかる火の粉。君は唇にはしなかった。ただ己の唇を瞼に押し付けて、笑う。世界が開かれる前に全て閉じてしまえば良い。目の前で笑う男。降りかかる火の粉。でもまだ見たい、と酷い加虐な笑みで言う。ああちりちりと火の粉が瞼に!

 

君は立ち上がって落ちている自分の煙草を拾った。口にしてよ、と私が言うと、俺は意地悪だから、と君は笑った。楽しそうに笑って、目を細めて、火の粉を振りかざすようなキスを瞼にする唇で、笑いながら。涙が出た。ちりちりちりちりちりちりと痛みながら空っぽになっていく。眼が、ちりちり、と。

「良い子にして待ってな」

君は優しく笑った。それでも火の粉が欲しかった。

 

抱きかかえた脳を撒き散らさないように自分は此処にいよう。戻ってきたときに君の顔を忘れないように眼を閉じておくよ。口紅のつかない、君の唇の火の粉の為に目を閉じておくよ。忘れないようにするよ。涙はとめどなく流れても火の粉を消すことは出来ず、消し飛ぶような衝撃の中で、ただ座り込んだ。

ただ、こんな顔を見られたのは、恥ずかしいと思った。