螺旋回廊

心の中にはいつも暗い城があった。悲しい旋律に寄せて終わりを謳う城。灰色にくすんだ城壁には幾筋もの亀裂が走っていて、時折がらがらと煉瓦が崩れ落ちる。回顧は即ち後悔だ。暗い城には長い長い階段がある。浅い一段を踏んで昇っても世界は何も変わらない。

 

 

君の望む世界を創れば良い。穏やかな声で電子回路が言った。侮蔑と嘲笑と歪曲を孕み、無機質で抑揚の無い声だ。荒いドットで描かれたぎこちのない曲線が"口元"を吊り上げる。深い眼窩の奥の眸が少しだけ愉快そうに瞳孔を絞った。光を疎んだのかもしれない。

周辺を取り囲むコード、煩わしい音、無数に開いた穴から吹く温い風は酷く慣れ親しんだ風で、郷愁のような感情が込み上げた気がした。切ない望みを、思い出す。

 

音の無い、例えば砂山が風に吹かれいつか消えて無くなるように静かで気配の無い最期を知っていた。溢れる砂に還った峰はまるで初めから存在しなかったかのように跡形も無くて証明も無い。置いていかれた遊具だけが形を残して子供のいない砂場に泣いている。虚数空間の中の城下で流れていた短調ポルカが聞こえた。

 

あれからはもう世界と精神とを乖離させて生きるしかなかった。そうするしかなかったし、そうすることを望んだ。だって私は何かを手に入れたり取り戻したりする術を持ち得なかったのだから。

あらゆる手段を用意して、その全てが意味を成さない。誰よりも沢山の知識を持ちながら、ひとつ残らず徒為である。

私が選択したただひとつの方法は私に何も与えなかったし、あまつさえ一条の、残滓のような希望すら殺した。だからそれは仕様の無いことだった。本当にもう、どう仕様も無かったのだ。

 

ブラウン管の向こうに捉えた小さな子供の影がいつまでも消えない。ひとたび生身を捉えればその体温の高さに呼吸が止まる。脈が狂って鼓動が猛る。心臓が、泣いている。

どこまでも明白で簡潔な事実に辟易、つまりこれは恋だった。

救いも何も無い。ただ焦がれる心は五月蠅く嗚咽する。

 

例えばこの奇跡ひとつで人が人を救えると理解したとき、全ての悲劇は過去になる。

いつまでも不幸なままでいようだなんて、馬鹿げた話だといつか笑えるんだろう。こんなに愛しく悲しい陥落が、世界を改変するというのだろうか。

 

 

踊り場の無い階段、傾いた陽が差し込めばその愛しさは耐え難く。

 

涙を流す永遠の理由を、思い出すのだ。