その夜は雨が降っていた

自動販売機が目の痛くなるような強い光を振りまく狭い道を、私は踊るような足どりで歩いていく。

とうの昔に全身は余すところなく雨に濡らされていた。最近頭から離れない、何か英語の何処か遠い国の歌を口ずさむ。

自動販売機の前に立ち止まり、雨の落ちてくる黒い空を見上げた。雨が目の中に入った。

最早噛んですらいなかったガムを包み紙の中に吐き出して、缶専用のごみ箱に突っ込んだ。自動販売機に背中を預けてずるずると座り込む。自分が雨に溶けて消えていく空想をした。ポケットにはブルーベリーのガム。

自分がこのまま溶けて消えてしまっても、後にこれだけでも残っていれば彼は気付くだろうかと考えた。瞼が思考の上に覆い被さってくる。私は素直に目を瞑った。

 

しばらくして目を開けると頭上には傘が掲げられていた。

私は傘の持ち主を見上げて笑った。

彼は風邪を引くぞ、と呟くような小さな声で言った。

 

私はかまわないのだと答えて彼にガムを差し出してプレゼントした。