2018-08-07から1日間の記事一覧

夜でもないし朝でもないし夕暮れでもない

ただ少しささくれ立った指の節々。剥いだ後の血液。かわがふやけていく。年を取るように。風呂に入ったとの指を見るのが私は嫌いで、それに触るのも嫌い。磯巾着は毒をもっているらしくって、昔知らずに突いていた。それでもそういう種類だったらしくて触っ…

闇を好むかといわれれば恐ろしいと光を呼べる

暗闇に入り込むと、体の外側に力が抜けていくのが解る。 腕を伸ばすと冷たい空間にはしっかりと爪でかつんと音が鳴った。硬質的な音だった。私は仕方無しに起き上がり、携帯を放り投げ、眼を閉じたばかりなのか寝ているのか解らない彼の口を噛んだ。 口の味…

わすれてしまう

纏わり付く夥しい量の髪の毛は、樹木に絡まる蔦のように踝から脛を経て、最早膝まで達しようとしていた。歩を進めることができなくなることを恐れ強かに前進すると、下肢を侵食している髪の毛は、ぶちりぶちりとまるで草が引き抜かれるかのような音をたて、…

その夜は雨が降っていた

自動販売機が目の痛くなるような強い光を振りまく狭い道を、私は踊るような足どりで歩いていく。 とうの昔に全身は余すところなく雨に濡らされていた。最近頭から離れない、何か英語の何処か遠い国の歌を口ずさむ。 自動販売機の前に立ち止まり、雨の落ちて…

あおいよる

夜中に目が覚めて、どうしようもない寂しさにとても泣きたくなったのに涙は一粒だって流れなかった。窓の外の夜はいつもより少しだけあおかった。そんないつもより幾らかあおい夜に思い出したのはきっともう二度と会えない家族でもその昔付き合っていた女の…