あおいよる

夜中に目が覚めて、どうしようもない寂しさにとても泣きたくなったのに涙は一粒だって流れなかった。窓の外の夜はいつもより少しだけあおかった。そんないつもより幾らかあおい夜に思い出したのはきっともう二度と会えない家族でもその昔付き合っていた女の子でも男の子でもなく、悪魔だった。

 

少し前、寂しくはないのと訊ねたら彼はひどく真面目な顔をしてどうしてとわたしに聞いた。

生まれてからずっと一人だったという彼も今は一人ではなくていろんな人と関わりを持っていた。だからわたしは、彼は寂しいんじゃないかと思いこんでいたのだ。一人きりなら決して抱くことのなかった感情も一人きりじゃなくなった今ならあふれ出ているのかもしれないと思ったのだ。悪魔に、どうしてそんなことを思ったのだろう。

 

少し前、寂しくはないのと訊ねたら彼はひどく真面目な顔をしてどうしてとわたしに聞いた。それから彼はお前は寂しいのかと聞いた。

寂しい?寂しい?そうわたしは寂しかった。たくさんの友達に囲まれていてもわたしは寂しかった。彼に出会ってますます寂しくなった。

一人きりならこんな寂しさを知らずに済んだのに、彼に出会わなければこんなにも寂しい気持ちにはならなかったのに、この気持ちに恋と名前を付けることが出来たらその寂しさにも理由が出来るのに、けれどわたしは彼に恋をしているわけじゃあ決してなかった。恋なんてものはまるでなくて、同情や軽蔑や畏敬が混ざったこの感情を一言で表す術をわたしは持たない。けれどそれは恋と呼ぶには余りにも程遠い。

ああわたしは彼に寂しいと思って欲しかった。この寂しさに理由を、彼に向けられた感情に名前を、大勢に囲まれた孤独を知った夜に涙を、わたしは小さい窓に切り取られたように映るあおい夜に祈るだけだ。

彼が寂しさを知ったとき、きっと総てはわかってしまうんだろう。彼はきっとわたしの目の前からいなくなるんだろう。そんな日が来ることはないと知っていた。悪魔がそんな感情を持つことは生涯ないと知っていた。

 

少し前、寂しくはないのと訊ねたら彼はひどく真面目な顔をしてどうしてとわたしに聞いた。

それから彼はお前は寂しいのかと聞いた。そうねと言ったら彼は嘲笑った。両方の目からたった二粒出てきた涙にわたしはとても安心して眠ることができた。

 

嘲笑う彼が、わたしの感情を決して持つことのない彼が、わたしを今日も生かしているのだ。同時にどうしようもない寂しさも、同情も、軽蔑も、畏敬も。