革命は起こらぬまま

ソファに埋もれて膝を抱えた。デザイン性の低い、しかしその代わり体を預けるには最適な座り心地。

真っ白な壁に何かの間違いみたいにぽつんと掛けられたスクエアの銀の時計が、私と日常との空間を切り分けるように秒針を刻む。細い針が動く毎に細切れにされてゆくようだった。

夕暮れを待つ空は一面橙色の絵の具がぶちまけられたようになっていて、たなびく雲までもがきれいな白のまま保たれてはいなかった。

時計の針が眺め始めてから360度回り終える頃に、漸く私は準備に取り掛かる。

 

私はソファに埋もれて深く呼吸を繰り返した。肺に新たな空気が送り込まれる。

左右の肺は酸素と二酸化炭素の間の需要と供給を一定の割合で維持する事で私を守っている。

心臓はその拍動のリズムを崩さずに血液を体中に循環させる役割において、なくてはならない存在だろう。つまり私は心臓の働きによってもまた守られている。

喉や唇や目や耳や鼻が私をあらゆるものから守り、私の生命活動を維持してくれている。

現時点で反乱を起こすとしたらこの頭だけだろう。

思惟、思想を司るこの器官はまったく私の意識化にあって、しかし私の意志の尊重を目的とせずにただひたすら有害であろうと思われる情報を私自身へと送り続けている。

ただ涙を流せ、と。

ぽっかりと私の顔面にあいた二つの穴から体の水分のうちほんの少しの量を、そこから滴らせろと。

これは有害だ。

何故なら自分の体の成分を体外に排出することで私は自身の一部分を確実に失い、新しい代替の成分を創造するという労力を払わなければならなくなる。

けれど私は最早自分の意図なのか、何か別の存在の意図なのか、釈然としないまま私は意志を司る頭からの命令に従順に従い、心から嗚咽を引き起こす。

泣くことによって心臓が拍動のリズムを崩し、喉があるべき程の距離感を忘れ狭まり、唇は乾き、目は正常な視覚を失い、耳は遠くの方でわんわんと酷い耳鳴りを響かせ、鼻の奥がツンと痛む。

私を守る筈の器官が乱れ、私の意識化にあるところであった頭がすべてを煩雑にする。

 

 

目覚めた私は壁に掛かった時計を見る。

 

密やかな夜の間中開け放たれていた窓から差し込む朝日が時計の銀の角を照らす。

輝きが一筋私の足元へと反射して、それはまるで私に跪いているかのようだった。

 

朝日に照らされる私は何故自分がソファで膝を抱えているのかもうわかってはいない。

そして日没とともにまた器官の反乱にあって、導かれるままにこの場所へと向かうのだ。