撫ぜらう

身体を曲げる嗚咽に脳みそをふるわせていると彼は笑った。

いつも笑っている。目を見上げると、怖がるようにでもなくまた笑った。にこにこしている。してるだけだ。そいつは逆光のなかで不敵に笑う。

何だろうなお前は、と彼がいう。私は頷いた。私にも解らない、と至極まじめに返した。

私は私が嫌いだ。

頭の中でおし込められる食物はもう変な味ばかりで、私の味蕾は殆ど麻痺している。誰かに美味しいと言えと言われれば美味しいと言う。どうとでも言う。だけれども自分にはもう本当に味があまり解らないのだ。味が濃いか薄いだかとか、食感や口あたり?まあそのくらいのことはわかるけど、逆に言えばそのくらいしか理解できない。

不幸だとは思わない。ただあまりにも自分にはそれに興味がなかったしそもそも私は馬鹿だった。

 

おうと、おおと。おーと?彼の言葉に抑揚は薄かった。彼の持つ最初で最後の障害ならばおそらく其れだろう。

嘔吐、と言い返す。頭悪いから頭良さそうな単語はわかんねえ、と彼はいう。彼の頭は悪いはずなのに頭の回転は悪くない。自分から馬鹿になることに力を込めていない。殺したいなあとたまに思う。

諦めているのか、と聞く。

諦めてないけど諦めても良い、と彼は言った。私はそれを衝撃の事実だと思った。

目を閉じる。吐きそうだ。はきつぶした靴の音がする。彼は少しだけ笑っている。

隣にしゃがんで背中を撫でた。私にも諦めろというようだった。でも彼と私は違う。脳みその仕組みが違う。酷い男だ。背中を撫でている。きっと彼が私の背中を撫でるのは、そっちのほうが面白いだけだ。

目を閉じてしまっている。嗚咽と同時に少し泣いた。

面白がるなら面白がれば良いと思う。

 

所詮私のやることはすべて悪あがきだ。