町からの誘惑とともに

知らず知らずのうちにどこかへ迷い込むのが好きだ。どこかへどこかへと唱える。

誰もいない場所へ時たま行きたくなる。そこがわたしの場所のなのかもしれないからだ。わたしは帰っていってしまうのだろうか。

慣れきってしまった身体を解すみたいに、わたしは遠くへ行く。街がわたしを誘惑している。いつも広がる青い空は、わたしの為にはないけれど、わたし以外のためには光っておいてくれる。それならば、それでいい。

空気を吸った。涼しい空気だった。此処はどこかと首を見回す。

煙草のにおい。見ると、煙管からゆらゆら、煙が溶け込んでいく。

女はわたしを見なかった。

いつでも、誰に殺されても良いという人間は、誰かが突如現れても驚いたりしない。そういう女なのだと思った。そう思いながら、太陽に向けて伏せたわたしの瞼はそのままだ。なんとなく、彼女はきっと立ち上がって歩こうとしたときに転ぶだろうなとは思った。

気配を感じたのか、ふ、と女が鼻で笑う。

わたしはすぐに目をそらした。ああ、もう、急激に飽きた。言葉を聞いてしまっては、もう他人ではない。

わたしはゆっくりと跳躍した。あたりを電柱の上から見渡せる程度のブロック塀から見知らぬ古ぼけた屋根の上に飛びのり、女を見下ろす。

意図せず、がおん、と大きな音を立てて着地してしまったことに溜め息を吐いたけれど、やはり女はわたしを見ていなかった。

 

あの場所には、もういけないと、なんとも無しに思った。