だれかがまおうになる

俯いた首のまま声を嗄らすことをしてはいけなくて、ならば顔を上げればと思いながらも、そうすること敵わず。首を絞められたような、手の皮膚の感触。波打つ指紋はきめ細かに並んでいて、その規則性が気持ち悪い。

手の平から汗が流れる。そして目玉からは涙が。首を撫でていた奴の手は離れる。

右手の人差し指が一本引き出されて、眉間にごつ、と当てられる。痛い。貫かれる。貫通する。

人差し指が額の皮膚に到達すると、少しずつ他の指が着地する。これはギャグのつもりだろうか。

 

月に降り立ったのは人じゃないと私は信じたい。人じゃないと思いたい。そんなとこまで、行かなきゃよかったのに。あの世に行くことをするひともいれば、あえないほど遠くに行く人までいる。

どうなっているのだろうなお前達は。誰のいうことも聞かない。誰の頼みごとも聞かない。

 

いい加減 一人くらい滅ぼしてくれと思う。

 

この世に居る誰かの革命を待つより、作り直すより、作り出すことに快感を得ている。

くたばることは素晴らしいことでなくても、みんなで死ねば恐くないと、誰かは冷たく歌う。だからと言ってみんなで死んでも、素晴らしいことになる筈はないんだろうけど。誰にも言わずに、頭に浮かんだ。

 

眼を閉じる。あけない。

眼鏡が外されて、指はいつの間にか頭を掴んでいる。掌底が額に当たる。前髪が持ち上げられて顔がすーすーする。

外気に触れる恐怖。

空気の抵抗に負ける皮膚。

音の無い暗闇の中での畏怖。

口は指でこじ開けられ舌をひねり出されてから舌ごと口を食われる。こうして捕食完了だ。

 

奴の項に手を伸ばすと、少し長い襟足が気持ち悪く指に当たる。皮膚。爪を立てる。奴の背骨が僅かに動いた。奴は姑息に舌を舐めた。むかついたので口の端を噛んでやると、其処は簡単に皮膚を破き血が出て、鉄分を染み出させた。

痛いからやめろ、と奴の声がする。獲物の悲鳴だ。

 

誰かが魔王になるか、誰かが魔王を作るかしなければならない。