笑っておくれよ
水色のマフラーが笑っている。
綺麗な振りをして埃だらけのそれが、命綱のように彼女を取り囲んでいる。
ただ首にしか触れていない。これでは死んでしまう。だが私には助けられないのだと、私は慎重に考える。助けられないものをすくあげようとする「癖」が直っていない。
癖だ。本能でもなく、成育の間に染み付いた「何か」恐ろしい洗脳だ。水色のマフラーが笑っている。これでは死んでしまう。
彼女は起きる。人の気配を察して起きる。恐ろしく早く、恐ろしく怯えながら飛び上がる。今寝ているのはもしかしたら寝ているのではなく起きているからかもしれない。おきているのかもしれない。起こされるのは余程嫌いらしい。起きたときも起こされたときも長い髪の毛が無造作に振り乱され、毛先が眼球に当たっては何事も全て悪だというような顔をする。
水色のマフラーが彼女を殺そうとしている。命綱ではない。これでは死んでしまう。
彼女が首をもたげる。薄暗い灰色の髪が目にかかっている。また首に何重にも巻かれる水色のマフラー。駄目だ、それは命綱にならない。ならないんだ。癖を押しとどめる。
私が彼女に何かしたところで何も、意味など無いのだ。
エンドレスフラッシュ、笑っておくれよ。
エンドレスフラッシュバック、返ってこなければ綺麗なのに。
またもう一度笑っておくれよ。今度は頑張って助けたいから。