世界の全てを殺しても君だけは生かしておくよ
君はもう死んでいるんだ。わたしももう死んでいるよ。
わたしは眼が覚めると必ず、此処が極楽浄土なら良いと思ったものだった。
わりと昔からの願望だ。誰もが極楽浄土に居ると思っていたからだ。極楽浄土は良いところだと聞いた。そう言ったのは誰だったか。残念ながらそもそも他人は信じていなかった。他人を信じていた奴はわたしの目の前で死んだ。
死ぬことは悲しい。死ぬことはとても悲しい。それは止められない。
人間は生きている限り死んでいく。生きていながらに死んでいく。わたしは何時もかなしい。
あいつは、本当に変な奴だった。悪い人じゃないどころか良すぎた。とてもよすぎた。なのに死んだ。骸は何処にいったのか。わたしはかなしいと言うよりはとても空虚だった。
世界は歪んでいる。それ以上にわたしも歪んでいる。悪いのはわたしだけだった。
何であいつは死んでしまったんだろう。わたしから見える場所に散らばる、色取り取りの髪の束。わたしは泣かなかったが、どこかで獣が吼えていた。
そして次の日も、わたしは眼が覚めると必ず、此処が極楽浄土なら良いと思い続けた。