これまでの証拠を隠す

悲しみに咲く花は咲かないもの、と彼女が言う。

彼女の中の本当は本当だったからこんな壁の中にいるのだけれど、わたしはそれに満足しているので貴方は満足しているのと聞いたらその答えが返ってきた。

哀しくはないのか、そうなんだ、とにっこりわらって聞くと、そうね、そうみたい、と彼女は言う。

 

彼女も彼女の中の境界線に言い訳を探してもらって生きている。そして自分はその境界線を壊してしまい此処に居る。

げに恐ろしきは境界線。

背中に居る蟲頭に飼う蟲、いつでもわたしの中にわたしが居る。恐るべき程に世界は流転しているのだけれどもそれを転がしているのはちぎれた境界線を繋げて繋げた太い糸だ。

あなた酷く正直なのね、と彼女が笑う。彼女の声は正直耳障りなのだが、その声が聞こえてくる限りはやはりわたしの中で境界線は取払われているのだというのがこの中では確認出来る。

咲かない花があるのかな、と言うと、あるみたいね、と彼女は自分の腹部を撫でた。

そうか、と答えると、そうよ、と答えるので、今すぐ目に映るもの全てぐちゃぐちゃにぶち壊したい気分と、それが出来ない気分の板挟みで背中がぞくぞくした。